裏切られた
冬は雪。
当たり前だが、車には天敵だ。
初めて滑ったときのことをよく覚えている。
あのときは、チェーンを巻いていた。
* * *
少しだけ登り坂。
前の車も怖いのか、ゆるゆる走っている。
止まらないでほしい…
止まるな… 止まるな…
そう思いながら走り、何とか登り切った。
ところが…
下り始めたら、前の車はもっとゆっくりになった。
車間距離がどんどん狭まる。
危ない、危ない…
あわてないで、エンジンブレーキを掛ければ良かったのだが…
そんな余裕も知識もない。
それなりにポンキングブレーキを掛けたつもりだったが…
車が横を向き始めた。
* * *
「滑ったときは、滑る方向にハンドルを切って…」
そんなことを教習所で言われたような気はしたが…。
そんなこと出来るわけがない。
ほら! 戻れ、戻れとハンドルを切ってしまったじゃないか!
* * *
今まで自分の手足のように思っていたのに…
何も言うことを聞かない車。
あのときの、裏切られたような恐ろしさは今でも忘れない。