まさかの連続(5)
母子を乗せて福祉事務所に着いた。
親の保護能力が問われている。
***
母親は普通でなかった。
突然叫んだりする。
知的な障害だけでなく、精神的にも不安定そのものだった。
母親の兄は、「その筋」らしき人だ。
障害のある妹を結婚させようと、無理矢理押しつけたという噂もあった。
父親は、すべてに萎縮していた。
* * *
母親は料理もほとんどしなかった。
親子ですぐ近くのスーパーに出かけ、出来合いのおかずを買っていたという。
試食だけで済ませていたという話も聞いた。
子どもの教育どころか、「生活」そのものが不安定だ。
児童相談所では引き取れないと言う。
このまま家に戻すしかないのか…。
* * *
福祉事務所の担当が母親と面談をしている間、女の子と別の部屋に行った。
事務所の別室には、積み木やブロック、そして薄汚れたぬいぐるみが無造作に置かれている。
ちょっとした店の「汚いキッズコーナー」という感じ。
入ってすぐに、その子が歓声を上げた。
「かわいい~」
その声は、まるで幼稚園の子。
おもちゃを前にしたその子を見て、やっぱりと思った。
実は、1学年の先生方から、「普通学級では難しい」という声が出ていた。
ジサマも、知的に、そして情緒的に、問題の大きさを実感した。
* * *
小学校からは何の申し送りもなかった。
当然、普通学級だ。
しかし、1,2ヶ月もしないうちに、みんな気がついた。
中学校は教科担任制。
複数の先生が子どもたちを見守る。
何か気がつけば、誰かから声が出る。
対して、小学校は、担任一人に委ねられる。
担任が気がつかなければ、
担任が申し出なければ、
見過ごされてしまうことが無くもない。
この子は、特別な支援が必要な子だった。
* * *
2学期から、学級を変わった。
年度途中の転級は不安が大きかったが、難しい数学なんかより覚えてほしいことがいっぱいある。
何より子どもが喜んだ。
***
それから6,7年過ぎたころ…。
ばったりあの子に会った。
花を植える土のようなものを買っていた。
「分かる?」
ジサマは自分を指さして聞いてみた。
恥ずかしそうにほほえんだ。
あのときと同じだ。
この子がしっかりするしかない…。
この子がしっかりすることがあの家庭を救う。
頑張ってほしい…。心から思った。