逃げた父親(4)
父親が帰って来たのは、その子が見つかってから2日後。
一緒に児童相談所に出向いた。
りっぱなスーツで、娘と久しぶりの対面。
怒るでない、悲しむでない、まるで役所の担当者。
相談所の担当者に、「よろしくお願いします」と頼んでいる。
* * *
母親に保護能力がないのは明らか。
児童相談所としては、父親と一緒に生活させたい。
単身赴任中の関東に娘の生活地を移せば、こっちの友達とも離れる。
なのに、「お願いします」のひと言だけ。
* * *
ケース会議ではもめた。
何としても父親に引き取ってもらいたい。
しかし、関東に出て、より大きくなる可能性もある。
結局、県内の施設に入所が決まった。
* * *
仙台出張のたびに、施設に寄った。
寄るたびに、顔が明るくなる。
いつも楽しくて、面会時間を超えた。
* * *
卒業式。
その施設での卒業生は4人だった。
ジサマを含め、4人の校長が来た。
一人ずつ、証書を渡した。
傷害、放火、窃盗、不純異性交遊…
それぞれ、いろんな問題を繰り返してきている。
だけど、みんないい子。
その子たちも犠牲者だった。
自分を振り返る言葉が重い。
親も、先生も、みんな泣いていた。
…なのに、あの親は来なかった。
仕事で来れない…?
ふざけるな。
涙を流すべきはこの子じゃなくて、あんたなんだ。
…言って分かるような親ならこんなことになってはいなかった。