まさかの連続(3)
「今、来ています。」
不動産業者からの電話が入って、すぐに車を走らせた。
途中、お父さんを乗せようと家に寄った。
しかし、お父さんはいない。
隣の家のお母さんに乗ってもらった。
子どもが小学校から一緒なので、ずっと心配していてくれた。
このお母さんの言うことなら、母親も落ち着いて聞いてくれそうな気がした。
* * *
マンションに着いた。
入り口で叫ぶ声が聞こえた。
仙台のママポリスさんが駆けつけてくれていた。
叫んでいたのはお母さん。
興奮状態だった。
* * *
娘は黙っていた。
ジサマを見ても、何の反応もない。
校長先生って、知ってるんだかどうだか…。
娘を別の部屋に連れて行き、二人で話した。
* * *
「誰だか、分かる?」
聞いた。
「うん」
笑って頷いた。
その声がほんとに幼い。
「大丈夫だった?」
「うん」
「ご飯は?」
「食べてない。」
拒否反応があるかと思ったが、全然そうではない。
「昨日はどこに泊まったの?」
聞いて驚いた。
磐城(福島)のホテルだという。
それじゃ、約束の時間まで来れないわけだ。
というより、よくこの時間まで来ることが出来た…。
***
その前は?
山形のホテルだそうだ…。
東北を回り歩いたようだ。
「ホテルはどうやって決めたの?」
聞いてまた驚いた。
インターネットで、そして…
ホテルを選ぶときの理由を聞いて、何とも言えなくなってしまった。
まさかの連続(2)
暗くなってから、バサマと二人、町内あちこちを車で回った。
帰り際に、その子の家に寄った。
昔の町営住宅のような小さな家。
お父さんは、お風呂に薪をくべていた。
いつものように黙ってうなだれているだけ。
中の様子を見せてもらった。
古くて小さな部屋に似合わず、真新しい電気製品がいっぱい。
とんでもなく大きなテレビもあった。
全部、娘が注文したという。
* * *
娘の部屋には、シーツで作ったような大きな袋。
中には、ぬいぐるみや古いおもちゃがいっぱい。
捨てるつもりだったのか…。
それ以外に、部屋を出て行くような気配は残っていない。
まったく突然の出来事だったとしか思えない。
* * *
コタツのそばの電話がぴかぴか光っている。
お父さんに聞くと、それが何だか分からないと言う。
留守電ランプのようだった。
許可を得て再生。
5,6件、全部、無言だった。
* * *
番号を確かめると、親戚からのものがほとんど。
しかし、2件ほど、県外からも…。
お父さんは、留守電の機能を知らない。
それどころか、電話そのものもあまり出たことがないようだった。
* * *
あれこれ話しているうちに、コタツの上のハガキが目に止まった。
ダイレクトメールのような…。
宛名が娘あて…。
「これ、何ですか?」
聞いたが、分からないと言う。
見せてもらった。
仙台のマンションの内覧会の案内だった。
…まさか
ハガキを借りていった。
* * *
不動産業者に電話。
案の定だった。
マンションを見たいと連絡を入れたらしい。
内覧会に来る時間を約束したという。
事情を話し、ジサマたちが行くまで引き留めてほしいとお願いした。
* * *
バサマと二人、仙台まで直行。
もちろん、警察にも連絡を入れた。
* * *
約束の時間よりずっと早く着いた。
担当の人に挨拶をし、目立たない近くの路上に車を止めて、待つことにした。
・・・
2時間ほども待ったか…。
結局、あらわれなかった。
担当の人にお礼を言い、家に戻った
ジサマの携帯に連絡が入ったのはすぐあとだった。
担当の人からの電話。
押し殺したような声で
「今、来ています。」
さぁ、それからだった。
まさかの連続(1)
女の子が家を出たことがあった。
中1だ。
母親と一緒だった。
残ったのは父親一人。
ただでさえ無口だったのに、いっそう寡黙になった。
* * *
大金を持って出たらしい。
まさかの600万円。
母親の実家から相続した遺産金だという。
実は…
母親は字が読めない。
父親も、数字が分かる程度。
中1の女の子も、知的な障害が見られた。
* * *
家を出てすぐに、中古の家を契約したことが分かった。
隣町。
400万円。
即決だ。
しかし、障子や襖の張り替えをする段階で、まさかのキャンセル。
不動産屋とは、ほとんど娘が話しをしたらしい。
140センチにも満たないくらいの身長。
当然、不審に思うはず。
その段階で知らせてもらえればよかったのだが…。
* * *
お父さんは、町内をくまなく自転車で探し回った。
ジサマたちも、近隣の町まで範囲を広げて探して歩いた。
しかし、
どこに行ったのか、まったく手がかりはない。
* * *
一週間も過ぎた頃、
しょんぼりするお父さんとコタツで向かい合ったジサマ。
コタツの上に置かれた1枚のハガキに目が止まった。
これが、まさかまさかの展開に繋がった。
マニュアル通り
牛丼屋さんに入った。
客は、ジサマとバサマ2人だけ。
すぐに、もう1人、お客さんがきた。
その人は、お持ち帰りの弁当を頼んでいる。
「○○と○○ですね。かしこまりました。」
「番号札、15番でお待ちください。」
「15番…。」
札を渡されたその人はぼそっと言って、椅子に座った。
番号札…?
15番…。
どっか変じゃなくね?
* * *
少し過ぎて、
「番号札15番でお待ちのお客様。」
「ご用意が出来ました。」
目の前、一人しかいないその人に向かって言っている。
番号札15番って…。
* * *
しばらく前だが…
マニュアルどおりにしかしゃべれない店員が多くなったことを嘆いたタレントがいた。
ジサマも、全くその通りだと思った。
次の週、手紙が来たと言う。
「しゃべれないわけではありません。しゃべることは許されていないのです。」
「私たちだって、自分の言葉でしゃべりたい。」
そういう内容だった。
聞いて、ジサマは自分の考えの浅はかさを思い知った。
* * *
バイトは勿論、正社員でも心許ない対応が目立つ昨今。
自分なりの考えや言葉でしゃべられたら、どんなトラブルが起こるか分からない。
すばらしい店員であってほしいと願うより、最低限度の対応が出来る店員であってほしいと願うのが現実的。
マニュアルは、そういう「最低限度」を保証するための道具であった。
* * *
翻って、教員だったジサマ。
学校現場には、こういったマニュアルはなかった。
マニュアルなんかに頼らなくても、教員ならば出来て当然。
マニュアルなんて必要ない。
正論である。
しかし、本当に、先生の「最低限度の品質」は保証されていただろうか…。
教員の問題があとを絶たない今、マニュアルなんて必要ないと言い切れない自分がいる。
マニュアル通りにしゃべる店員を侮蔑した自分の浅はかさが情けない。
のどに注射!?
このブログは、いつもたわいもない話しばかり…。
だからといって、
何も考えないで生きているわけではない。
それなりに、難しいことは難しく考えて生きている。
たまには、ほんもののジサマを見せたい。
今日は「難しいこと」を書こうと決めていた。
* * *
…で、今晩はしゃぶしゃぶ。
飲んでしまった。
難しいことは考えられなくなった。
…いつものパターンだ。
* * *
というわけで、今日の日記。
風邪なのか、のどの調子がよくない。
お医者さんに診てもらった。
のどが真っ赤だという。
「イガイガすっか?」
いつものズーズー弁で聞いてくる。
「なかなか抜けなくて…」
ジサマが返事をすると
「のどさチュウシャすっか?」と言ってきた。
マジ? 冗談?
一瞬、黙っていたら、看護婦さんが「そっちに座って」と言う。
ほんと!?
少し焦ったら、
「じゃあ、吸入するからね」だって…。
あのお医者さん、
「のどさチュウニュウすっか?」と言ったらしい。
発音が悪いんだよな…。
ってか、ジサマの耳も悪いのか…。
スパイラル現象
もう60年も前のことだけど…
紙芝居のおんちゃんのことが忘れられない。
* * *
ドンドンのおんちゃんと、カチカチのおんちゃん。
ジサマのところへは、二人来た。
ドンドンのおんちゃんは、太鼓を鳴らしながら来る。
それはうまい話だった。
カチカチのおんちゃんは、拍子木だ。
拍子木もしょぼい感じだったけど、話はもっとしょぼかった。
* * *
1回、10円。
たった10円だけど、週に2回見ることは出来なかった。
当然、ドンドンのおんちゃんにみんな集まる。
カチカチのおんちゃんのときは、せいぜい5~6人。
いつも遊んでる場所でやるわけだから、少し離れて見ている。
すると、「ペロンコすんな!」とおんちゃんが怒る。
見たいわけではない、見えるんだ~!
生意気なことを言って逆らうから、カチカチのおんちゃんはいつも不機嫌。
紙芝居も、ますますつまらなくなる。
***
ドンドンのおんちゃんはいつも上機嫌。
カチカチのおんちゃんはいつもしかめっ面。
いい方に回転すると、どんどんそっちへエスカレートするし、
悪い方に回転すると、どんどん悪くなるものだ。
* * *
今考えると、カチカチのおんちゃんは可哀想だったかも…。
あまり稼ぎもよくなかったろうし、きっと家に帰っても不機嫌だったはず。
でも、悪い回転を止めるのは、やっぱり笑顔しかない。
バサマは、それが出来るからすごい。
期限は守る…
やっと絵が出来上がった。
頼まれてから2年も過ぎた。
* * *
その気になれば、仕上がりは早い。
しかし、ジサマの一番の問題は、「その気」にならないこと。
「その気」にならなければ、という義務感はあるのだが…。
* * *
ジサマへの一番いい頼み方は、期限をつけて頼むこと。
「いつでもいいですから」なんて言ったら、絶対ダメ。
今回は、しびれを切らした相手が催促したからその気になった。
期限があれば、ぎりぎりいっぱいだが、期限は守る。
そういう男だ。
まあ、ジサマに頼んでくるなんて、まずないことだけど…。